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Q 私は、従業員20名程度の運送会社を経営しております。2024年から残業時間の上限など、我々の運送業界にとって大きな影響を及ぼすような法改正がなされると聞きました。改正の内容は具体的にはどのようなものなのでしょうか。
A 2019年から、労働環境の改善及び生産性の向上を目指し、長時間労働の是正を促すための法改正(働き方改革関連法)が順次行われており、中でも注目されるのが、残業時間の上限の設定です。
これまで、労働基準法上及び厚生労働省告示において、残業時間の上限を定めるものはありましたが、特別の事情があれば、その上限を超えてもよいとされたり、違反に対する罰則がないなど、実質的には上限なく時間外労働をさせられる状態となっていました。
しかし、近年、長時間労働の深刻化により労働者に過大な負担がかかり、健康や家庭生活に悪影響を及ぼす事態が社会問題となっていたことを背景に、生産性の向上と労働環境の改善を促すべく、働き方改革の一つとして今回の改正で残業時間規制がなされたのでした。
この労働時間規制については、全ての業種に対して行われているものでありますが、中でも特に2024年4月から施行された、長距離トラック運転手の労働時間の規制が業界全体に対して重大な影響を及ぼすものとして注目されています。
まずは、その改正の内容を見てみましょう。
①時間外労働(残業)規制(自動車運転業務)
・特別の事情の有無にかかわらず、年間960時間まで
②拘束時間の制限
・1日あたり最大15時間以内
・宿泊を伴う長距離運行は週2回まで16時間
・1か月あたり原則284時間、年3300時間以内
※労使協定により年3400時間を超えない範囲で310時間に延長可
③違反に対する措置
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法119条1項)
概要としてはこのような改正となっています。
残業時間に上限を設けられたこともさることながら、違反に対する罰則が定められた点も大きな改正だといえます。
トラックドライバー等の労働環境に変化を与えることが見込めますが、物流への影響はないのでしょうか。
この点については、この改正が我が国の輸送力に大きな打撃を与え、物流に停滞を招くものとして、運送業界では大きな懸念となっており、それがいわゆる「物流の2024年問題」です。
国交省の見解によれば、この改正後、何も策を講じなければ2024年度には14%、2030年度には34%もの輸送力不足となる可能性が指摘されています。
また、懸念は稼働時間の制限による単純な輸送量の減少だけではありません。
実際に考えてみると、今回の改正に従いドライバーの残業時間を年間960時間、拘束時間を年間3300時間とした場合、実態としての1日の拘束時間は12時間となるそうです。
しかし、そうなると、例えば通常13時間程度かかるとされる東京大阪間の輸送は、この上限を超えてしまうことになります。
つまり、従来一人のドライバーで担当していた輸送に2人用意しなければならないことになるのです。
こうした不都合は運送業者の経営を圧迫し、消費者目線でみれば料金の高騰につながるものといえるでしょう。
国交省はこうした物流の2024年問題への早急な対応の必要性を認識しており、様々な施策を計画しておりますが、その内容としては、従来の商慣行の見直し、DXの推進等による物流の効率化といった、即効性のあるものでなく、中長期的なものばかりです。
とはいえ今回の改正は運送業者の経営に大きな打撃を与えるものでありますが、一方で、これまでの物流がトラックドライバーの長時間労働という過酷な労働の上に成り立っていた側面があることは事実でしょう。
物流は重要なインフラであり、労働者にとっての労働環境の改善と運送業者にとっての健全な経営を両立させた制度設計が必要であることはいうまでもありません。
労働者、雇用者の双方または一方に負担を押しつける形でなく、健全でかつ円滑な物流を維持するため、業務の効率化を高める抜本的な制度改革が待たれるところです。