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養育費の不払いダメ、ゼッタイ
2022-12-05
カテゴリ:Q&A

Q 数年前に前夫と協議離婚しました。子どもの親権は私が取得し、前夫から毎月、話し合いで決めた金額の養育費を支払ってもらっていたのですが、先月から突然、養育費の支払いが止まり、前夫に連絡をしても返事がありません。養育費を支払ってもらうにはどうしたらよいのでしょうか。

 

 

A 離婚時に養育費の取り決めをして、当初は相手から支払いがあってもその後に支払いが止まってしまうケースは少なくありません。このように、相手方が任意に支払いをしない場合、相手方の支払いを強制させるには、裁判所で強制執行の手続をする必要があります。

 裁判所で強制執行の手続をするには次のいくつかの点に注意をする必要があります。

 

①債務名義が必要

 強制執行の手続をするには、その前提として、「債務名義」が必要になります。「債務名義」とは、簡単にいうと、本当にその債権が存在するということを証明する公的な文書です。どういった文書が「債務名義」になるかは法律で定められており、裁判の判決文や調停の調書が代表例になります。 

 法律で定められた文書でなければ債務名義にならないので、養育費の金額を前配偶者と合意書を作成していたとしても、その合意書は債務名義にはなりません。この場合、強制執行の手続をする前に、まず、家庭裁判所での調停か裁判によって債務名義を得る必要があります。

 

ただし、裁判所の手続を経なくても、相手との合意で債務名義を得る手段があります。それは強制執行受諾文言を入れた公正証書によって離婚の協議書を作成するという手段です。

 公正証書は公証役場で公証人によって作成される書面です。

離婚の際に取り決めた内容を公証役場に持って行くことで、公正証書によって離婚協議書を作成することができますが、このとき、「養育費の未払があった際には、強制執行を受け入れる」という内容の条項(強制執行受諾文言といいます。)を盛り込めば、その公正証書が債務名義になります。

そのため、裁判所の手続を利用せず、二人での話し合いで離婚をするという場合であっても、最低限こうした公正証書を作成しておくことをおすすめします。

 

②相手方の財産の調査が必要

 債務名義を取得すれば、相手方が所有する財産に対して強制執行をすることができるようになります。強制執行の対象として考えられる財産は、不動産、預貯金、相手の勤務先からの給料債権などが挙げられます。

 しかし、これらの財産に強制執行をするには、これらの財産が明確に特定されていなければなりません。預貯金であれば、銀行名支店名や口座番号、給料債権であれば相手方の勤務先が判明している必要があります。

 相手の勤務先や銀行口座が、婚姻当時から変わっていなければ、執行手続がスムーズにいくこともありますが、離婚後、相手方の勤務先や、よく使用している銀行口座が変更されているケースは少なくありません。

 従来は、このように相手方にどのような財産があるのか分からない場合、これを調査することは容易ではありませんでした。民事執行法上、「財産開示手続」という相手方に自身の財産を報告させる手続はありますが、相手方が開示に協力しない場合のペナルティが軽いため実効性に乏しく、また、この財産開示手続には、上記の公正証書が利用できませんでした。

 

しかし、令和2年の法改正により、相手方財産の調査の制度がより拡充されることになりました。

まず、財産開示手続の他に、「第三者による情報取得手続」という制度が設けられ、銀行や役場、年金事務所といった機関から相手方の財産や勤務先に関する情報を取得することができるようになりました。法律上の一定の要件を満たす必要はありますが、この手続を利用することで、例えば、預金口座であれば、支店名や口座番号などの必要な情報を取得することができます(ただし、金融機関自体は判明している必要があります)。

また、従来の財産開示手続についても、開示に協力をしない場合にペナルティとして新たに刑事罰が定められたり、財産開示請求に公正証書が利用できるようになるなど、財産開示の実効性の向上に向けた改正がなされています。

新たな情報取得制度の実効性については、実際の実務での運用を注視していく必要がありますが、この改正により、養育費の回収の困難性が一定程度改善されていくのではないかと思います。



   弁護士 藤掛 昂平 (ko.fujikake@gmail.com) 

神戸湊川法律事務所
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