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故人名義の預金の払戻し方法
2022-10-05
カテゴリ:Q&A
Q 
 先日,父が死亡し,自宅の土地・建物の他,田畑を含む多数の不動産を遺産として残してくれたのですが,相続人として長男の私を含む4人の兄弟姉妹がおり,遺産分割協議の成立までにはまだまだ時間がかかりそうです。
私は,父の葬儀費用や法事,お墓の整備などで多額の出費があったので,亡き父名義の預金だけでも,先に分割してほしいのですが,それは可能でしょうか。



A            
1 平成28年の最高裁判決の金融実務への影響
相続が開始すると,被相続人名義の預金は凍結され,金融機関としては,相続人全員による遺産分割協議書ないしは同意書が揃わない限り,遺産の預金の払戻しに応じないのが原則です。しかし,従来の判例上,預貯金は被相続人の死亡により当然に法定相続人に法定相続分に応じて分割承継されると考えられていたため,例外的に一部の相続人に対して,法定相続分に応じた払戻しに応じる例も多かったようです。
ところが,最高裁判所は,平成28年12月19日,従来の判例を変更し,「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権および定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となる。」と判示しました。
この判例変更により,金融機関が従来,例外的に行ってきた,一部の相続人による法定相続分に応じた預金の払戻しはその根拠を失うことになりました。
 
2 預貯金の払戻し制度の創設(民法909条の2)
 令和元年7月1日に施行された法改正により,預貯金の払戻し制度が創設され,被相続人の銀行口座の預金残高の3分の1に払戻しを行う相続人の法定相続分を乗じた金額(例えば,相続人が子2名で,預金残高が300万円の場合の払戻し額は50万円となります。)の払戻しを受けることができることになりました。
 ただし,同一の金融機関からの払戻しは150万円が上限となります。
 
3 家庭裁判所による仮分割の仮処分(家事事件手続法200条3項)の創設
 同じく令和元年7月1日から施行された法改正により,家庭裁判所に遺産分割の審判や調停が申立てられている場合に,各相続人は,家庭裁判所へ申立てることにより,相続預金の全部または一部を仮に取得し,金融機関から単独で払戻すことができる制度が創設されました。
 ただし,生活費の支弁等の事情により相続預金の仮払いの必要性が認められ,かつ,他の共同相続人の利益を害しないという要件が付されています。
 
4 まとめ
上記のとおり,平成28年の最高裁判決により,未分割の預金の払戻しが困難となりましたが,令和元年の法改正により,各相続人は,遺産分割協議が未了の場合でも,一定の要件はあるものの,単独で預金の払戻しができるようになりました。これらの制度を利用することにより,葬儀費用やお墓の建立のための資金を早期に確保することができるようになるとともに,家庭裁判所の許可を得れば生活費のために相続預金を払戻す途も開かれることになりました。


弁護士 藤掛 伸之 fujikake@lawyers.jp
神戸湊川法律事務所
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