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Q
先日、交通事故に遭い、500万円の損害を被りました。信号機のない交差点で、自動車同士の出会い頭事故だったのですが、私に一時停止違反がありましたので、私の過失割合が8割といわれました。
私は、人身傷害保険に加入しており、その保険金して300万円を受領しましたが、これ以上、交通事故の相手方に請求することはできないのでしょうか。
A
ご相談者の損害額は500万円であり、過失相殺額が400万円[500万円×0.8]ですので、相手に請求出来るのは最大で100万円となります。
ここで問題となるのは、人身傷害保険で受け取った保険金がどのように取り扱われるかという点で、次の3つの考え方がありました。
1つ目は、人身傷害保険の保険金を、過失相殺を除いた請求額(上記事例では100万円)から、既払い金として差し引く考え方です(絶対説)。この考え方によると、過失相殺額を控除後の請求額が、人身傷害保険の保険金を超える場合(例えば、上記事例でご相談者の過失割合が4割未満の場合)でなければ、交通事故の相手方に請求出来ないことになります。
要するに、この考え方によると、過失相殺後の請求額又は人身傷害保険の保険金のいずれか大きい方が上限となり、人身傷害保険に入るメリットは、過失相殺の割合が大きい場合に備えてのみということになります。
2つ目は、人身傷害保険の保険金のうち、過失割合分を除く部分(上記事例では60万円[300万円×(1-0.8)])を、既払い金として請求額から差し引く考え方です(比例配分説)。
この考え方によると、相手方に40万円[100万円-60万円]を請求することができることになり、保険金と合計して340万円を受け取ることができることになります。そのため、絶対説よりも有利となりますが、人身傷害特約に入るメリットはまだ限定的となります。
3つ目は、人身傷害保険の保険金を、まず過失相殺分から充当し、過失相殺分を超える場合に初めて、既払い金として請求額から差し引く考え方です(訴訟基準差額説)。
この考え方によると、上記事例において、人身傷害保険の保険金300万円は、過失相殺額400万円を超えないため、人身傷害保険の保険金は、既払い金としては差し引かれることはなく、100万円を請求することになり、保険金と合わせて合計400万円を請求することができます。
このように、訴訟基準差額説が最も人身傷害保険加入者にとって有利となります
このように、3つの考え方がある中で、最高裁は裁判基準差額説にたつことを明らかにしました(最高裁平成24年2月20日判決)。
そのため、人身傷害保険に加入しており、少しでも過失割合が認められる場合には、人身傷害保険を利用した方がよいということになりますので、積極的にご利用をご検討ください。
弁護士 上田 貴 ueda@fujikake.lawyers-office.jp