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「本人」による後見申立て
2023-02-06
カテゴリ:Q&A

 老人ホームを経営していますが,脳梗塞の後遺症で身動きがとれない認知症の施設利用者(90歳 女性)の一人息子が,母親から預っていた預金通帳から勝手に預金を払い戻してしまい、現在音信不通です。

 そのため,施設利用料の口座引落しができなくなって,現在、施設利用料が滞納となっています。この預金口座には,母親の年金が送金されてくるので,息子は将来的にも年金を取り込んでしまう恐れがあります。施設利用料を回収する方法は何かないでしょうか。

 

 音信不通となっている息子から通帳を取り戻す方法を考えるしかありませんが、そのような状況の息子が任意に通帳を渡すとは考え難いです。

 健常者の場合、施設利用者ご本人に通帳の紛失届を出してもらうか、年金の振込先を変更してもらえばよいですが、今回の場合、施設利用者ご本人は身動きがとれないため、ご本人に紛失届を出したり、振込先の変更手続をしてもらうのは困難です。

 

 そこで考えられるのは、後見申立てを行い、就任した成年後見人に通帳の紛失届等をしてもらうことです。

 しかしながら、後見申立てできるのは、「本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官」に限られますので(民法第7条)、施設側が後見申立てを行うわけにはいきません。

 事情を説明して、協力してくれる配偶者や四親等内の親族がいれば、その人に申立人になってもらいますが、施設入所者の中には配偶者や四親等内の親族がいない、又は、連絡先が分からない方も多く、仮にいたとしても必ずしも申立てに協力してもらえるとは限りません。

 

 また、65歳以上の方の場合、老人福祉法32条に基づき、市長村長による後見申立(いわゆる「市長申立」)が可能です。しかし、この制度では、4親等内の親族の調査とその意向確認に時間を費やしたり、予算の壁があったりなど、迅速適正な保護を図ることが困難です。

 

 そうすると、なかなか方法が無いように思えますが、民法には「本人」による申立てが可能と書いています。

 ただ、本人による後見申立人の場合、後見相当の判断能力の人が,成年後見の意味を理解して申し立てできるのか、仮に,弁護士に委任して申立てをするのであれば,弁護士と委任契約が結べるのか、問題となります。

 

 しかしながら、民法に「本人」による申立ても可能と記載されている以上、本人による後見申立であるという一事のみで、裁判所も申立てを却下することはできません。

 

 認知症といっても、常時判断能力を欠いているわけではなく、症状に波があるのが通常です。そのため、判断能力が比較的正常なタイミングで、後見申立てを決意し、弁護士への委任を行えば、委任契約の効力が失われることはありません。

 大事なのは、委任契約の時の状況を、動画で撮影する等して、客観的に保存しておくことです。裁判所にとっても、委任契約締結時の本人の状況には関心があるため、その状況を保存しておくことで後々立証が可能となります。

 また、後見申立てを行う必要性を裁判所に理解してもらうことも重要かと思います。申立てを却下しても、いずれ市長申立てがなされ得る事案のような場合には、却下しても時間になるだけですので、裁判所も後見開始の審判を行う方向で考えると思います。

 

 実際、私が担当した事案でも、本人による後見申立てが認められたことがあります。

 ですので、同じような事案で困ってらっしゃる方がいましたら、一度、当事務所までご相談ください。

 

弁護士 上田 貴 ueda@fujikake.lawyers-office.jp


神戸湊川法律事務所
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