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Q 先月、父が亡くなり、私を含めた兄弟3人で相続をすることになりました。父の遺産には不動産や預貯金等があります。しかし、父が最後に住んでいた自宅は、私の夫に購入資金を出してもらって父に買ってあげたものでした。また、父の最期の数年は、父の認知機能が低下し、一人で身の回りのことをこなすのが難しい状態にあったので、私が中心となって介護をしておりました。遺言はありませんが、父は私に全ての財産を渡すというようなことも話していたので、遺産は全て私のものということにはならないのでしょうか?
私たち夫婦で父のために尽くしてきたのに、父のために何もしてこなかった兄弟と均等に父の遺産を分けるのは納得がいきません。何かよい方法はないでしょうか?
A まず、我が国では、亡くなった方が遺産相続の希望を示す方法として遺言という制度がありますが、遺言は、法律上定められた形式を遵守したものでなければ効力を生じません。
自筆証書遺言・公正証書遺言のいずれにも共通するルールとしては、必ず書面で作成するというものがありますので、今回のように、口約束で財産をあげると言ったというものは、たとえ動画や録音のようなものが残されていたとしても法律上の遺言にはなりません。
そのため、今回のようなケースで、そのようなお父さんのお話があったからといって、遺産を全て自分一人で相続するというのは難しいでしょう。
本件では、兄弟3人で3分の1ずつ遺産を分けるというのを基本路線に遺産分割協議をすることになります。
しかし、ここで、他の兄弟よりも多くの遺産を取得するために主張できるものとして、寄与分という制度があります。
寄与分とは、亡くなった方の遺産の増加や維持に相続人の一定程度の貢献が認められる場合に、その貢献の程度に応じて他の相続人よりも多くの遺産を分配するという制度です。
法律上、寄与分については、共同相続人の中に
①被相続人の事業に関する労務の提供又は財産の提供
②被相続人の療養看護
③その他の方法
の貢献があり、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者がある時に認めるということになっています。
今回でいえば、亡くなったお父さんの介護を行っていたというのは、ここでの療養看護に当たる可能性があります。
ただし、注意しなければならないのは、単に療養看護を行ったというだけでなく、それによって、遺産の維持または増加に特別の寄与をしたといえる必要があることです。
例えば、一定期間継続して介護を行ったことで、本来介護事業者に委託をしていればかかっていたであろう介護費用を免れたといえるほどに、金銭的に評価できる程度のものである必要があるでしょう。
また、ここでの貢献が無償で行われていたといこともポイントになります。そのため、介護を行う代わりに毎月お小遣いをもらっていた等、対価を受領していたと見られるケースでは寄与が否定される可能性があります。
そして、この寄与分については、従来は相続人によるものしか規定されていませんでしたが、令和元年施行の改正により、特別寄与料として相続人の一定の範囲の親族についても認められることが明記されました。
これにより、たとえば相続人の配偶者が熱心に介護をしていたという場合についても特別寄与料の主張が認められる可能性が出てきました。
ただし、注意しなければならないのは、相続人の親族による寄与の態様としては、療養看護か労務の提供しか認められず、財産の提供による寄与は認められないという点です。
そのため、今回のように、夫が被相続人のために自宅を購入してあげていたというような、財産を提供していたというケースでは、少なくとも条文上、寄与分は認められないということになります。