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建設業法の立替払い制度
2024-09-06
カテゴリ:Q&A
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Q 当社は大規模な建設工事を取り扱う建設会社です。先日、当社が元請けとして受注した建設工事に関して、孫請けとして工事に関与していた職人から、仕事の発注を受けた下請け業者から報酬の支払がされておらず、何度請求しても支払ってくれないので、元請けである当社の方で立て替え払いしてほしいという要望が伝えられました。当社としては支払ってあげたい気持ちもありますが、当社も下請けに対する支払いがあるので二重払いになるのは避けたいと考えています。当社で立て替え払いに応じるべきでしょうか?
A 大規模な建設工事であれば、発注者から直接注文を受ける元請負人から何次にも重なって下請けが連続され、多数の作業員が関与する中で工事が行われることが一般的です。
このように複数の下請けが重ねられる場合であっても、報酬の支払い義務を負うのは、あくまでもその下請けについて発注を行った業者であり、さらに上位に位置する下請負人や元請負人は契約の当事者にはならないので、報酬の支払い義務を負いません。
分かりやすくいえば、元請負人がA、Aの下請けに入った業者がB、さらにBの下請けに入った業者がCだとして、Cに対する報酬を支払う義務があるのは直接発注を行ったBであり、Aは契約の当事者ではないのでCに対する報酬の支払い義務を負いません。
しかし、建設業法は、通常より大規模な建設工事を施工することができる資格として「特定建設業許可」を定めています(建設業法15条)。
建設業法は、この特定建設業者について、受注した建設工事に関して、工事が適切に行われるよう監督する責任を課していることはもちろん、参加した下請負人全体に賃金や報酬が行き渡るよう、全体を監督する責任を課しています。
金額が大きく何次にも渡って下請けが重ねられ、多数の建築業者が関与するような大規模な建設工事においては、報酬の未払や賃金の未払が、これに関与した建設業者の連鎖的な倒産を引き起こすおそれがあるからです。
そして、特定建設業者が元請負人として受注した工事において、下請負人に報酬の未払があった場合や、下請負人による不法行為によって第三者に損害が生じている場合、これを監督する行政庁は、必要に応じて特定建設業者に、立替払い等の適切な措置をとるよう勧告をすることができると規定されています(建設業法41条2項、3項)。
つまり、特定建設業者は、自身が受注した建設工事において、下請負人同士で報酬の未払・賃金の未払があった場合には、それを立替払いしなければ、監督官庁からの勧告を受ける可能性があるということになります。
ただし、この規定は特定建設業者に法的な支払義務を負わせるものではないとされており、勧告に応じない場合の罰則も定められていません。
とはいえ、監督庁からの勧告の可能性があることを考えれば、なかなか特定建設業者として無視できるものではないでしょうから、このような立替払いの要求を受けた場合には、事情をよく調査した上で支払いに応じるべきかを検討し、なるべく話し合いの中で解決するのが妥当だと思われます。
なお、元請負人としては、自ら発注した下請負人に対しては契約上の報酬の支払い義務を負うので、孫請負人に対する立替払いに応じるのであれば、報酬の二重払いになってしまうおそれがあります。
こうした二重払いの状態を避けるために、事前に下請負人との契約書において、孫請負人に対する立替払いを行う場合があること、そして立替払いを行った場合には、その金額を下請負人に対する支払い額から控除できる(報酬支払い債務と相殺できる)旨を明記しておくことが一般的です。
このような規定を入れておくことで、万が一孫請けに対する立替払いを行った場合には、その金額を下請けに対する報酬から差し引くことができますので、二重払いを回避する事が可能です。
また、このような条項を入れておけば、仮に下請負人が債務超過となり、民事再生の申立をした後に元請負人が立替払いをした場合であっても、当該下請負人に対する報酬債務と相殺することが可能だと判断した裁判例もあります(東京高裁平成17年10月5日)。
建設工事に関して報酬・賃金の不払い等の問題が生じた場合には、ぜひ弁護士へご相談ください。
弁護士 藤掛 昂平
ko.fujikake@gmail.com