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Q
最近、新聞等で頻繁に「公益通報」という用語が使用されていますが、公益通報とは何ですか。同様に「外部通報」や「内部通報」という用語や「ハラスメント相談窓口」という用語が使用されることもあり、それらの違いがよくわかりません。
A
1 「公益通報」とは
「公益通報」とは、①労働者等が、②役務提供先の不正行為を、③不正の目的でなく、④一定の通報先に通報することをいいます。
① 労働者等とは
「労働者等」には「労働者」のみならず、「退職者」や「役員」も含まれます。
「労働者」には、正社員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーなど
のほか、公務員も含まれます。
「退職者」は、退職や派遣労働終了から1年以内の者に限ります。
「役員」とは、取締役、監査役など法人の経営に従事する者をいいます。
② 役務提供先の不正行為とは
「役務提供先」とは、労働者や役員が役務を提供している(退職者の場合は提供していた)事業者のことです。
公益通報者保護法の対象となる法令違反行為とは、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律」として公益通報者保護法や政令で定められた法律に違反する犯罪行為若しくは過料対象行為、又は最終的に刑罰若しくは過料につながる行為をいいます。
③ 不正の目的でないこと
不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的で
通報した場合は、公益通報にはなりません。
④ 一定の通報先とは
通報先は、(1)事業者内部、(2)権限を有する行政機関、(3)その他の事業者外部のいずれかです。
(1)事業者内部は、役務提供先又は役務提供先があらかじめ定めた者(社外の弁護士や労働組合等)を指します。
(2)行政機関は、通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関(警察等)及び当該行政機関があらかじめ定めた者を指します。
(3)その他の事業者外部は、その者に対し通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(当該通報対象事実により被害を受け、又は受けるおそれがある者を含み、当該役務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除く。)を指し、報道機関や消費者団体等が該当します。
2 通報先ごとの保護要件
通報先ごとに保護を受けるための要件(保護要件)が異なります。
(1)事業者内部への通報を行おうとする場合
通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料すること
(2)権限を有する行政機関への通報を行おうとする場合
以下a又はbのいずれかの要件を満たす場合
a 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があること
b 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料し、かつ、次の事項を記載した書面を提出すること
・通報者の氏名又は名称、住所又は居所
・通報対象事実の内容
・通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する理由
・通報対象事実について法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと思料する理由
(3)その他の事業者外部への通報を行おうとする場合
通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、a ~fのいずれか1つに該当すること
a 事業者内部(役務提供先等)又は行政機関に公益通報をすれば、解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由があること
b 事業者内部(役務提供先等)に公益通報をすれば、通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由があること
c 事業者内部(役務提供先等)に公益通報をすれば、役務提供先が通報者について知り得た事項を、通報者を特定させるものであると知りながら、正当な理由がなく漏らすと信ずるに足りる相当の理由があること
d 役務提供先から事業者内部(役務提供先等)又は行政機関に公益通報をしないことを正当な理由がなく要求されたこと
e 書面により事業者内部(役務提供先等)に公益通報をした日から20日を経過しても、通報対象事実について、当該役務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該役務提供先等が正当な理由がなく調査を行わないこと
f 個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人の財産(事業を行う場合におけるものを除く。)に対する損害(回復することができない損害又は著しく多数の個人における多額の損害であって、通報対象事実を直接の原因とするものに限る。)が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由があること
3 公益通報に該当する場合の通報者の保護
公益通報を行った者(公益通報者)は、公益通報をしたことを理由とした
事業者による不利益な取扱いから以下のとおり保護されます。
① 解雇の無効
公益通報をしたことを理由として事業者が公益通報者に対して行った解雇は無効となります。
② 解雇以外の不利益な取扱いの禁止
公益通報をしたことを理由として事業者が公益通報者に対して解雇以外の不利益な取扱い(降格、減給、退職金の不支給、役員の報酬減額等)をすることも禁止されています。
③ 損害賠償の制限
公益通報をしたことを理由として事業者が公益通報者に対して損害の賠償を請求することはできません。
4 内部通報、外部通報、ハラスメント相談窓口との区別
内部通報(または、内部公益通報)と外部通報は法律上の分類ではありませんが、一般的には、内部通報には事業者内部への公益通報が該当し、外部通報には、行政機関への公益通報とその他の事業者外部への公益通報が該当すると整理されます。
また、ハラスメント相談窓口とは、パワハラ防止法により、企業に義務付けられた職場のパワーハラスメント対策の1つで、企業内部に設置された内部相談窓口と弁護士等に委託して設置する外部相談窓口とがあります。
パワーハラスメントはパワハラ防止法において規定されていますが、犯罪行為若しくは過料対象行為又は最終的に刑罰若しくは過料につながる法令違反行為とされていないことから、これらの法律違反についての通報は、公益通報には該当しません。従いまして、ハラスメントに関する通報は公益通報ではなく、ハラスメント相談窓口への相談となります。
もっとも、ハラスメントが暴行・脅迫や強制わいせつなどの犯罪行為に当たる場合には、公益通報に該当し得ます。
当事務所では、公益通報の内部通報の外部窓口、またはハラスメント外部相談窓口の業務も行っておりますので、どうぞご利用ください。
ハラスメント等相談窓口|神戸湊川法律事務所(公式ホームページ)|法律事務所|法律相談|弁護士|神戸市中央区| (kobe-minatogawa.jp)
弁護士 藤 掛 伸 之 fujikake@lawyers.jp