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保証会社による賃貸借契約の解除
2025-02-06
カテゴリ:Q&A
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 建物賃貸業をしておりますが、最近では、敷金・保証金を預からずに、家賃保証会社に滞納賃料等を保証してもらうケースが増えてきています。
 家賃保証会社は滞納賃料だけでなく、契約解除後の明渡のための訴訟費用等も保証してくれますが、家賃保証会社の負担を軽減するために、賃料滞納があった場合に家賃保証会社に賃貸借契約の解除権を認めたり、当然の明渡を認める条項を保証委託契約書に盛り込むことを求められたりすることがあります。
 このように賃借人に賃料滞納があった場合に、家賃保証会社に解除権を認める条項や賃貸物件の当然明渡を賃借人に認めさせる条項は有効でしょうか。

A 
1 家賃保証業者とは
  家賃保証業者とは、一般に、賃貸借契約において、賃貸人と賃借人との契約締結の際に、家賃保証業者が予め用意した契約用紙を用いて、賃借人との間で家賃保証委託契約を締結し、また、賃貸人との間で家賃債務保証契約を締結して、賃借人から委託保証料を受領する。その後、家賃滞納などが発生した場合、賃貸人からの請求に応じて滞納家賃に係る保証債務を履行し、その前後に、賃借人に対して保証に基づく求償権を行使しその支払いを受けるという業務を行っている会社です。
 賃貸人としては、所有建物を賃貸するにあたって、賃借人の賃料不払いによる未収リスクを抱えているところ、家賃保証業者と家賃債務保証契約を締結したときは、当該業者から迅速、確実に滞納家賃を回収することができ、その賃料の未収リスクを大幅に低減することができます。
 賃借人としては、家賃保証業者に保証委託をすることで、賃借人自身の資力を補う信用供与を受けることができ、よって住居となる建物を賃借することが容易となります。
 このように家賃保証業者の利用は、賃貸借契約の当事者双方にメリットがあり、最近、急速に普及しています。

2 家賃保証会社による無催告契約解除と追出し条項
  家賃保証会社は、滞納家賃等を保証することになるので、滞納が長引けば長引くほどその負担が大きくなります。そのため、賃借人と家賃保証会社との間の保証委託契約では、家賃滞納が続く場合に、家賃保証会社が賃貸人・賃借人間の賃貸借契約を無催告で解除できるとする条項(無催告解除権付与条項)や、家賃の滞納が続く場合、家賃保証会社が賃借物件内に立入り、動産を搬出・処分することを事前に承諾する条項(自力救済条項)、さらには家賃の滞納が続く場合、賃借人が明示的に異議を述べない限り、賃借物件の明渡しがあったものとみなす条項(追出し条項)等、賃借人にとって不利と思われる条項が設けられることがあり、その効力が問題となります。

3 最高裁令和4年12月12日判決
  最高裁令和4年12月12日判決は、賃借人に家賃滞納があった場合に、家賃保証会社が賃貸借契約を無催告で解除できるとする条項(無催告解除権付与条項)、及び家賃保証会社が賃借人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況からして賃借建物を相当期間利用していないと認められる場合などには、賃借建物を明渡したものと看做すという条項(追出し条項)のいずれも賃借人の利益を一方時に害する条項であるとして消費者契約法10条後段に違反して無効と判断しました。
 この最高裁判決の事案での高等裁判所判決(大阪高裁令和3年3月5日判決)では、最高裁判決とは逆に、各条項が適用される場面を賃借人に不利のないように限定解釈をした上で、いずれも無効ではないと判断していたのが、最高裁判所で逆転されました。
 このように同一事案で最高裁と大阪高裁で異なる判断となったのは、大阪高裁では、賃借人の保護の観点から、無催告解除権付与条項と追い出し条項が適用される場面を限定的に解釈したのに対し、最高裁では消費者(事業者ではなく個人としての賃借人は消費者)を事業者から保護するという消費者契約法の趣旨からは、その有効性は契約の文言のみから判断すべきであって限定解釈をする手法は妥当でないと判断したことによります。
 つまり、最高裁判決では無催告解除権付与条項及び追出し条項について一般的に無効と判断したわけではなく、あくまでも当該事案の明文化された無催告解除権付与条項及び追出し条項は、消費者である賃借人が一方的に不利なものと判断したに過ぎません。従って、賃借人に有利な限定が各条項で明文化されていたような場合(無催告解除や追出しの要件として、当事者間の信頼関係を大きく損なう事情が具体的に定められている場合など)には、有効とされる余地もあります。しかし、この最高裁判決により、今後の家賃保証実務で無催告解除権付与条項や追出し条項を設ける場合には、細心の注意が必要になったということは言えるでしょう。
 なお、上記最高裁判決は、いわゆる自力救済条項について触れるものではありませんが、過去の裁判例では、賃料滞納がある場合といえども、賃貸借契約書の自力救済条項に基づき、賃貸人が賃貸物件に立ち入り、残置物を搬出・処分するなどの行為は違法とするものが多数あり(東京高等裁判所令和3年1月29日判決など)、ましてや賃貸借契約の当事者ではない家賃保証会社に、特約条項による自力救済が認められる余地はないと考えられます。
 

弁護士 藤 掛 伸 之 fujikake@lawyers.jp  



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