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賃貸借の解約トラブルに注意!
2025-03-05
カテゴリ:Q&A
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Q-1 転勤が決まり、賃借していた家を引っ越すことにしました。賃貸人に解約を申し入れ、明渡しの立会を行った際に、「家具を置いていた場所は床にへこみが見られる。壁も額縁の日焼けや画鋲・ネジ釘の跡がついているので、クロス張り替えが必要。預かっている敷金の中から原状回復費用に充てて、不足している場合は請求します。」と言われました。故意の傷や汚れ以外でも、原状回復費用を負担せねばならないのでしょうか。
Q-2 昨年7月に一人暮らしを始め、賃貸借契約を締結しました。契約書には、「賃貸借の期間は2年間とし、1年未満で賃借人から解約を申し入れる場合、違約金として賃料の2ヶ月相当額を支払わねばならない。」と規定がありました。急遽、実家に戻って生活せねばならなくなり、今年の3月末で契約を終了したい旨を2月中に伝えていましたが、1年未満での退去のため、違約金を請求されました。これは支払う義務があるのでしょうか。

A-1 賃貸借契約の解約時に、原状回復トラブルが発生することが見受けられます。原状回復とは、「契約開始時の状態に戻して返却する」という意味ですが、自宅として賃借物件を利用している以上、家具や電化製品の置き型がついたり、壁が変色することは当然予測されます。民法621条で賃借人の原状回復義務が定められていますが、条文でも、「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年劣化を除く)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。」と規定されています。この、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗」を、通常損耗といいます。
 どういったケースが通常損耗や経年劣化に当たるかについては、国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」をホームページ上に公表していますので参考になります。ガイドラインをふまえますと、今回の質問にある、「家具を置いたことによる床のへこみ」「額縁の日焼け」は通常損耗にあたると例示されています。壁への画鋲やネジ釘の利用に関しては、「ポスターやカレンダー等の掲示は、通常の生活において行われる範疇のものであり」と記載があり、「下地ボードの貼り替えが不要な程度の」画鋲やピン等の穴は通常損耗の部類に分類されています。一方、「重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの貼り替えが必要な程度の」ネジ穴や釘穴については、「通常の使用による結果」とは評価されず、原状回復が必要な毀損に分類されています。ガイドラインはあくまで例示ですので、例えば、壁一面に画鋲の跡があったり、近い場所に何度も画鋲を刺したことで壁紙が破れてしまっているようなケースでは、「通常の使用(通常損耗)」範囲を超えているとして、原状回復を請求される可能性もあると考えます。 また、例えば契約書に「画鋲の利用は問題ないが、跡が目立つ釘やネジは使用しないで下さい。」と明記されており、入居時にその点の確認がなされていたというような事情があった場合は、ネジ釘の利用は契約違反であり、この損耗も原状回復を請求される可能性があります。
 今回の質問のケースでは、画鋲・ネジ釘の使用数や壁の損傷具合によっては、原状回復費用を請求される可能性があります。もっとも、その場合でも、通常損耗を超えた使用による損傷と認められる部分のクロス張り替えを負担する義務となるため、全てのクロス張り替え費用を請求された場合は過剰請求となります。

A-2 賃貸借契約では、賃貸借期間を定めていることがあります。その場合、賃借人にもその期間は賃借物(質問のケースでは賃貸物件)を使用・収益し、賃料を支払う義務が発生することになります。とはいえ、物件の賃貸借では様々な事情で期間の途中で解約が必要になる場合があり、賃借人による解約のルールを契約書に定めています。「賃借人は、解約の30日前までに申し入れを行うことで解約可能、もしくは、解約申入れの日から30日分の賃料を支払うことで即時解約可能」というように、約1ヶ月の期間猶予もしくは賃料を差し入れることで随時解約ができるという条項が多く見られます。しかし、中には、質問のケースのように、解約を事前通知したとしても違約金が発生する旨を契約書で規定・合意しているケースもあります。
 契約自由の原則といって、契約当事者は契約内容を合意により自由に定めることができます(民法521条2項)。そのため、賃貸借契約において賃借人が契約期間途中で解約する場合の違約金をどのように設定するかも、当事者の合意に委ねられるのが原則で、契約書の内容を遵守する義務が賃借人に生じます。但し、質問のケースのように、自宅の賃貸借の場合、賃借人は消費者であり、賃貸人は事業者(不動産賃貸を業としている)にあたるため、消費者契約法が適用されます。消費者契約法9条1項1号では、消費者契約の解除に伴う損害賠償額を予定(予め賠償額を契約で合意しておくこと)したり違約金を定める条項は、その合計額が、「当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずる平均的な損害額」を超える場合は、その超えた部分について契約条項が無効になります。
 今回の質問のケースと同様に、違約金として賃料の2ヶ月分を支払わねばならないという契約条項が、消費者契約法9条1項1号によって無効となるかが争われた裁判例では、結論が分かれています。
東京簡易裁判所H21.8.7判決(最高裁判所判例検索HPで掲載)では、
■一般の居住用建物の賃貸借契約においては、途中解約の場合に支払うべき違約金額は賃料の1ヶ月(30日)分とする例が多数と認められること
■次の入居者を獲得するまでの一般的な所要期間としても1ヶ月は相当と認められること
■被告(賃貸人)が主張する途中解約の場合の損害内容はいずれも具体的に立証されていないこと
等から、被告(賃貸人)が解約で受けることがある平均的な損害は、賃料の1ヶ月分相当額であると認めるのが相当であると判断し、「2ヶ月分の違約金を支払う」となっている契約条項の、「1ヶ月分」を超える部分は消費者契約法9条1項1号により無効と判断されました。
一方、東京地裁H27.11.4判決(ウエストロージャパンに掲載)では、
■一般的な賃貸借契約において、解約予告期間を1ヶ月とするものと2ヶ月とするものがある
と指摘した上で、解約予告条項の賃料2ヶ月分という金額が、中途解約の場合に賃貸人に生ずべき平均的な損害の額を超えるものであったと認められないとして、その旨を定めた契約条項は、消費者契約法により無効とはならないと判断されました。
 平均的な損害を超えていることの立証責任は消費者側(賃借人側)が負うことや、次の賃借人募集及び確保にかかる見込み期間、契約期間年数と実際の利用期間等、様々な要素により、解約予告に代わる違約金の金額が、消費者契約法上の「平均的損害を超える」かどうかの判断は変わりうるということになります。
 
 賃貸住宅の入居時には解約時のことまで意識を向けにくいですが、契約内容をしっかり確認しておくことが大切です。もしトラブルに発展してしまった場合は、弁護士や最寄りの消費生活センターにご相談ください。
  
 
弁護士 浦本真希  
uramoto@fujikake.lawyers-office.jp



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