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相続対策目的の養子縁組は有効か?
2025-10-05
カテゴリ:Q&A
Q
私の父は、10年以上前に他界しておりますが、当時の遺産分割協議により、父の莫大な遺産をほとんど単独で相続した母が、たのたび死亡しました。
私は、母の長男であり、弟が1人いて実子としては合計2人ですが、母は死亡する約3年前に、母の兄の子、つまり母からすれば甥と姪にあたる親族2名と養子縁組をするとともに、すべての財産を実子である私の弟と養子2名に相続させるという内容の公正証書遺言を作成しました。私は、この遺言により、遺留分が侵害されましたので、弟と養子らに対し、遺留分侵害額請求権を行使するつもりです。
母が、私を遺贈の対象から除外したのは、私が母の老後の世話を全くしなかったためと思います。世話をしていたのは弟と甥であり、遠方に居住していた姪は何の世話もしておりません。
母が甥だけでなく、姪まで養子としたのは、遺産の額が大きいことから相続税対策であるとともに、私の取り分(遺留分)を減らす目的があったのではないかと思います。
もしそうだとしたら、甥との養子縁組はともかく、少なくとも姪との養子縁組は、親子関係を形成するためのものではないので無効ではないでしょうか。
A
1 養子縁組の節税効果
養子縁組をすると、法定相続人が増えることにより、相続税が減額となることがあります。
たとえば、相続税の基礎控除額は3000万円+600万円×法定相続人の数となっているため、法定相続人が増えることにより控除額が増えることになります。
また、相続税額を計算する際には、各相続人の法定相続分に応じた各取得金額に税率を乗じ、これらを合算して、相続税の総額を算出する仕組みとなっています。
税率は取得金額が多いほど高くなっているため、法定相続人が多いほど、各取得金額が減り、全体として相続税が低くなる可能性もあります。また、法定相続人の数は、生命保険金や死亡退職金の非課税限度額にも関係します。
ただし、上記の計算に加算できる養子の数は、被相続人に実子がいる場合は1人まで、被相続人に実子がいない場合は2人までに制限されています。
2 養子縁組の遺留分減少効果
養子縁組で相続人が増えることにより、遺留分侵害額請求をすることが予想される相続人の遺留分を減少させるという効果が発生します。
ご相談のケースでは、被相続人の実子は2人で、このままですと長男の遺留分は、相続人全体の慰留分2分の1に法定相続分2分の1を乗じた4分の1ということになります。ところが、被相続人は、生前に2名と養子縁組をしているので、相続人は合計4名となります。その結果、長男の遺留分は、相続人全体の遺留分2分の1に法定相続分4分の1を乗じた8分の1が遺留分となり、被相続人は養子縁組をすることにより、長男の遺留分を4分の1から8分の1に減少させることができたということになります。
3 相続対策目的の養子縁組は有効か
以上に述べたとおり、養子縁組には相続税や遺留分を減少させる効果があることから、それらを目的として養子縁組がなされることがあります。しかし、本来の養子縁組は、親子関係を形成するためのものであり、当事者間にその意思があることが必要です。そのため、相続対策目的で養子縁組をした場合に、親子関係を形成する意思があるといえるかどうかが問題となります。
この点について、最高裁判所平成29年1月30日判決は、以下のとおり判示しています。
『養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。そして、前記事実関係の下においては、本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない』
つまり、節税目的の養子縁組イコール無効というわけではなく、親子関係を形成する意思がないと認められる特段の事情がある場合にのみ無効という極めて限定的な考え方を明らにしました。上記判例は節税目的の養子縁組関するものですが、同様の考え方は、遺留分を減少させる目的の養子縁組にも該当すると思われます。
従いまして、ご相談のケースの養子縁組も無効となる可能性は低いと思われます。
弁護士 藤 掛 伸 之 fujikake@lawyers.jp
