本文へ移動

よくあるご相談

記事一覧

ダークパターンとは?
2025-11-05
カテゴリ:Q&A
NEW
Q ダークパターンという、ウェブサイト上の表示やデザインについて、国内外で研究が進んでいると聞きました。ダークパターンはどのようなもので、どんな対策が講じられるのでしょうか。
A 
1.ダークパターンとは
 ダークパターンの意義ないし概念は、研究が進むにつれ、様々に定義づけられています。イギリスの認知科学者でユーザーエクスペリエンス(UX)デザインの専門家である、ハリー・ブリヌル(Dr.Harry Brignull)氏によって、2010年に初めて提唱されました。ハリー氏は、後年ダークパターンをディセブティブパターン(Deceptive Patterns)と表現するようになり、「ウェブサイトやアプリにおいて、利用者の意図に反して特定の行動(例:商品購入、サービス申込など)をとらせることを目的として設計されたユーザーインターフェース上のトリック」と説明しています。
 OECD(経済協力開発機構)やアメリカの連邦取引委員会(FTC)といった公的機関でも研究が進められ、日本では、2025年3月に、消費者庁より『いわゆる「ダークパターン」に関する取引の実態調査』と題する報告書(以下、「報告書」といいます)が公表されました。報告書は、ダークパターンについて、「必ずしも統一的な概念ないし意義として把握されているわけではないが、①消費者の誤解を招いたり誘導することを通じて意図しないことをさせるか、消費者の自主的な意思決定や選択を損なうことによって、②消費者の最善の利益に反するとともに事業者の利益になる意思決定をさせる、といった要素が見られる。」と記載されています(報告書9頁引用)。
2.ダークパターンに該当し得る例
 ダークパターンに該当し得るウェブサイトやアプリ上の表現やデザインとして、報告書では、①行為の強制、②インターフェース干渉、③執拗な繰り返し、④妨害、⑤こっそり(スニーキング)、⑥社会的証明、⑦緊急性、⑧言語的な行き詰まり、⑨その他と分類されています。9分類それぞれでさらに行為例が分かれており、具体的な例(サイトやアプリの表示例)も報告書には記載されています。例えば、①行為の強制の「強制的情報開示」とは、だまされて又は強制されて、商品の購入やサービスを利用する上で必要と考えられる範囲を超えて、性別や生年月日といった個人情報を共有してしまうことと説明されています(報告書19頁)。②インターフェース干渉の「隠された情報」とは、重要な情報が不明瞭にされているものであり、解約や返金の条件といった重要な情報が、デザイン上不明瞭であったり、消費者が画面をタップしなければ詳細説明が示されないといったものがあげられています(報告書22~24頁)。また、②インターフェース干渉の「不当参照価格」とは、誤解を招く又は虚偽の参照価格からの割引価格という形で価格が表示されているものをさし、「値下げしました!」等割引価格を強調するも、参照価格の根拠が不明なものがあげられています(報告書29頁)。⑤こっそり(スニーキング)の「隠れ定期購入」とは、1回きりの契約ではなく3ヶ月ごと購入等定期的に契約が継続する定期購入契約であることが不明瞭であったり、予期せぬ形で契約が自動更新される形態を指します(報告書39頁)。⑥社会的証明の「No.1表示/高満足度」とは、商品の売上げや性能に関するランキング1位の表示や、高い満足度の表示があるものを想定しています(報告書43頁)。例えば、根拠となる調査内容が明示されていなかったり、アンケート抽出対象や期間が不適切といった問題が生じ得ます。⑦緊急性の「在庫わずか」とは、商品の数量が限られていることに関する表示であって、誤解を招いたり、虚偽の可能性があるというものを想定しています(報告書45頁)。数字を具体的に示さず、「在庫わずか」「お急ぎください」との表示を強調したり、「残り1室」と目立つ表示を行うものがあげられます。
3.ダークパターンへの法規制
 このような表示・デザインは、デジタル取引において、誰しも目にしたことがあると思われます。これらは、商品サービスのマーケティング活動の一環であるとはいえ、ダークパターンによって望まぬ(意図せぬ)契約をさせられたり、望まぬ契約からの解放を困難にさせられるといった事象が生じており、消費者の権利・利益を侵害する表示やデザインとして規制が必要と考えられるものとそうでないものとの差別化が求められています。
 現行の法規制では、以下の規制が可能と言われています。
 例えば、②不当参照価格や⑥No.1/高満足度表示は、その表示態様によっては、景品表示法の、優良誤認表示や有利誤認表示として行政処分の対象となり得ます。但し、景品表示法は、消費者が締結してしまった契約の取消しや解除に直結する効果は(私法的効果)はありません。
 ⑤隠れ定期購入は、特定商取引法では、不実の表示や非表示により、契約内容について消費者が誤認して契約した場合、行政処分の対象になるだけでなく、契約の取消しも可能です(特定商取引法15条の4)。その他、特定商取引法では、通信販売の規制として広告への表示義務や、誇大広告の禁止、顧客の意に反した申込みをさせることの禁止が規定されています。
 日本において、ダークパターンについての考察は始まったばかりであり、どのような規制につながるか、まだ分かりません。消費者としては、上記の事例のように、ウェブ上やアプリのデザインや表示により、巧みに契約に誘導されたり、解約を困難にさせる手法があることを念頭に置いて、落ち着いて契約・判断することが要請されます。
 
弁護士 浦本真希  uramoto@fujikake.lawyers-office.jp



神戸湊川法律事務所
〒650-0015
兵庫県神戸市中央区
多聞通3-3-9 神戸楠公前ビル3階

TEL.078-341-3684

TOPへ戻る