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施行目前!カスハラ対策義務化 ①
2026-09-07
カテゴリ:企業法務,労働問題
注目
Q 小売業を営んでいます。カスタマーハラスメント(カスハラ)への対策が法律で義務になると聞きました。当社は従業員10人ほどの小さな会社ですが、対象になるのでしょうか。そもそも、どこからがカスハラなのかもよく分かりません。
A 結論から申し上げます。2026年10月1日から、労働者を1人でも雇用しているすべての事業主に、カスハラ対策が法律上の義務となります。パワハラのときにあったような中小企業向けの猶予期間は、今回は設けられていません。従業員10人の会社でも、施行日から義務を負います。まずは「何がカスハラに当たるのか」を正確に押さえるところから始めましょう。
1 2026年10月1日から、従業員が1人でもいれば対象になる
根拠となるのは、改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)です。この改正により、カスハラへの対応が、事業主の「雇用管理上の措置義務」として位置づけられました。
すでにパワハラ防止措置を義務づけている法律の枠組みに、カスハラが加わった形です。
重要なのは、規模による例外がないことです。パワハラの義務化では中小企業に約2年の猶予がありましたが、今回は経過措置がありません。大企業も中小企業も、従業員を雇う個人事業主も、同じ日から一斉に義務を負います。
具体的に何をすべきかは、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号。2026年2月26日公布)に示されています。
2 カスハラは「三つの要件」をすべて満たすものを指す
指針は、職場におけるカスハラを次の三つの要素をすべて満たすものと定義しています。
① 顧客等の言動であること
② 労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えていること
③ 労働者の就業環境が害されること
③の「就業環境が害される」とは、その言動によって労働者が身体的または精神的な苦痛を受け、職場が不快なものとなった結果、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、働くうえで見過ごせない程度の支障が生じることをいいます。
なお、対面での言動に限りません。電話でのやりとりや、インターネット上(SNSへの投稿など)で行われるものも含まれます。
3 「顧客等」は、お客様だけを指すのではない
見落とされやすいのがこの点です。指針にいう「顧客等」には、商品を買ったサービスを利用した人だけでなく、次のような人が広く含まれます。
・取引の相手方(取引先の担当者、契約交渉の担当者を含む)
・駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設などの利用者
・施設やサービスの利用者の家族
・施設の近隣住民
・今後、商品の購入やサービスの利用をする可能性がある人
つまり、消費者を相手にする商売だけの問題ではありません。企業どうしの取引でも、取引先の担当者からの行き過ぎた言動はカスハラになり得ます。
4 「要求の中身」と「やり方」、どちらか一方が行き過ぎていれば該当し得る
社会通念上許容される範囲を超えているかどうかは、二つの側面から判断されます。
要求の中身が行き過ぎている例としては、そもそも要求に理由がない場合や商品・サービスと全く関係のない要求、契約で想定しているサービスを著しく超える要求、対応が著しく困難または不可能な要求、不当な損害賠償の要求が挙げられています。
やり方(手段や態様)が行き過ぎている例としては、暴行や傷害といった身体的な攻撃、脅迫・中傷・名誉毀損・侮辱・暴言・土下座の強要といった精神的な攻撃、威圧的な言動、繰り返しの執拗な言動、不退去や居座りといった拘束的な言動が挙げられています。
ここで注意していただきたいのは、どちらか一方だけが行き過ぎている場合でも該当し得るということです。要求そのものには理由があっても、伝え方が度を越していればカスハラになります。
5 正当なクレームは、カスハラではない
一方で、お客様からの苦情のすべてがカスハラに当たるわけではありません。商品やサービスの改善を求める正当な申し出は、むしろ会社にとって貴重な情報です。
また、障害のある方が不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁を取り除いてほしいという意思を表明すること自体は、カスハラには当たりません。対策を進める際には、消費者の権利や障害者差別解消法にも配慮する必要があります。
該当するかどうかは、言動の目的、そこに至った経緯や状況(労働者の側に問題のある対応がなかったかを含みます)、業種・業態、言動の頻度や継続性、当事者の関係性などを総合的に考慮して判断します。現場任せにせず、会社として判断の物差しを決めておくことが欠かせません。
6 まとめ:まずは「線引き」を社内で共有することから
義務化まで残された時間はわずかです。しかも規模による猶予はありません。最初の一歩は、自社にとって何がカスハラで何が正当な苦情なのか、その線引きを会社として決め、現場と共有することです。ここが曖昧なままでは、その後の方針づくりも相談体制も機能しません。
次回は、法律上「必ず講じなければならない10の措置」の中身を、一つずつご説明します。
弊所では、カスハラの判断基準づくりから社内規程・マニュアルの整備までお手伝いしております。施行が迫っておりますので、お早めにご相談ください。
弁護士 藤掛 昂平
