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施行目前!カスハラ対策義務化 ②
2026-09-07
カテゴリ:企業法務,労働問題
注目
Q 2026年10月からカスハラ対策が義務になると聞きました。「義務」といわれても、具体的に何をどこまでやれば法律を守ったことになるのでしょうか。また、やらなかった場合はどうなるのでしょうか。
A 厚生労働省の指針は、事業主が必ず講じなければならない措置として10の項目を挙げています。
大きく分けると、①方針を決めて周知する、②相談体制を整える、③起きた後に適切に対応する、④悪質な事案への備えをつくる、⑤相談者を守る、の五つの柱です。順にご説明したうえで、最後に、対応しなかった場合のリスクにも触れます。
1 「毅然と対応し、従業員を守る」という方針を決めて周知する
最初の柱は、会社としての姿勢を明らかにすることです。義務の内容は二つあります。
① カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護するという方針を明確にし、従業員に周知・啓発すること
② カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を、従業員に周知すること
②の「対処の内容」として指針が例示しているのは、その場の対応方針について管理監督者に指示を仰ぐこと、可能な限り従業員を一人で対応させないこと、犯罪に当たり得る言動は警察へ通報すること、本社・本部へ情報共有して指示を仰ぐこと、といった内容です。抽象的な宣言だけでは足りず、現場が実際にどう動くかまで決めて伝えることが求められています。
2 相談窓口を決めて、担当者が対応できる状態にする
二つ目の柱は相談体制です。義務は次の二つです。
③ 相談窓口をあらかじめ定め、従業員に周知すること
④ 相談窓口の担当者が、適切に対応できるようにすること
窓口はカスハラ専用である必要はありません。既存のハラスメント相談窓口や社内ヘルプラインで対応できるようにしておけば足ります。ただし、置いただけでは不十分で、担当者が判断基準や対応手順を理解し、実際に動けるようにしておくことまでが義務の内容です。
3 起きてしまった後は、迅速かつ適切に対応する
三つ目の柱は事後対応で、三つの義務があります。
⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
⑥ 被害を受けた従業員への配慮の措置を適正に行うこと
⑦ 再発防止に向けた措置を講ずること
⑥の配慮としては、繰り返される不相当な言動に一人で対応させない、複数名や組織として対応する、心身の不調があれば産業医などの専門家につなぐ、といった対応が想定されます。
録音や録画、対応記録を残しておくことは、⑤の事実確認を支える実務上の要となります。
4 カスハラ特有の義務が「特に悪質な事案への備え」
四つ目の柱は、他のハラスメント対策には見られない、カスハラに固有の義務です。
⑧ 特に悪質と考えられるカスハラへの対処の方針をあらかじめ定め、従業員に周知し、その対処を行うことができる体制を整備すること
社内のハラスメントであれば、行為者を指導したり懲戒したりできます。しかし相手が顧客等の場合、会社と雇用関係がないため、直接の措置を取ることが容易ではありません。
だからこそ、悪質な事案について「どうなったら取引や来店をお断りするのか」「どの段階で警察に通報し、弁護士に相談するのか」を事前に決め、それを実行できる体制まで整えておくことが求められています。ここが今回の義務化で最も準備の手間がかかる部分です。
5 相談した従業員を、プライバシーと不利益取扱いの両面から守る
五つ目の柱は、相談者の保護です。
⑨ 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知すること
⑩ 相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、従業員に周知・啓発すること
⑩は「定めて周知する」ことまでが義務です。就業規則やハラスメント防止規程に明記しておくのが確実です。
6 罰則はない。しかし公表と損害賠償という重いリスクがある
措置を講じなかったこと自体に、直接の刑事罰はありません。しかし、行政による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合には企業名が公表されることがあります。地域に根ざした会社にとって、社名の公表は実質的に最も重い制裁になり得ます。
そして実務上、より深刻なのは民事責任です。対策を怠ったまま従業員が心身の不調をきたした場合、安全配慮義務違反(労働契約法5条)として損害賠償責任を負う可能性があります。逆に、日頃から対応体制を整えていたことを理由に、会社の責任が否定された裁判例もあります。備えは、従業員を守ると同時に会社自身を守るのです。
7 まとめ:10項目を「文書」と「体制」に落とし込む
10の措置は、突き詰めれば、方針とマニュアルという文書を整えることと、相談窓口と悪質事案への対応という体制を整えること、この二つに集約されます。規程やマニュアルの作成から研修まで、一般に数か月を要します。施行日は目前です。
弊所では、方針・規程の作成、対応マニュアルの整備、悪質事案の判断基準づくり、そして実際に発生した事案への対応まで、一貫してお手伝いしております。どうぞお早めにご相談ください。
弁護士 藤掛 昂平
