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SNSでの誹謗中傷投稿への削除対策が強化されます
2024-07-05
カテゴリ:Q&A
Q SNSで誹謗中傷を受けた場合、どのような対応ができるのでしょうか。
最近、SNS上の成り済まし広告による投資被害件数が非常に増えていることもあり、SNS事業者への対策を求める法律改正があったと聞きました。どのような改正でしょうか。
A 誹謗中傷が、悪質で、刑法上の名誉毀損罪や侮辱罪に該当する場合は、警察に被害届を提出し、刑事責任を求めることになります。一方、書き込みを行った者(発信者)に対して、不法行為に該当するとして損害賠償を請求するには、まず、発信者が誰なのか特定する必要があります。
発信者の情報を得るためには、いわゆる「プロバイダ責任制限法」の規定に従って、情報開示手続を行います。2022年10月より、これまでサイト管理者(SNSの事業者)からIPアドレスの開示を受け、その後にインターネットサービスプロバイダへの発信者情報の開示請求を行っていたのを、1つの手続で、サイト管理者とインターネットサービスプロバイダに発信者情報開示を請求できるようになり、裁判所による審理も非訟手続といって訴訟より迅速に判断できるように、制度改正がなされています。
情報開示手続により発信者が判明すれば、その者への損害賠償請求を行っていくことになります。
発信者への法的責任追及とは別に、サイト管理者に対して、投稿削除を要請することも重要です。これまでも、各サイトやSNSで設定する管理規約に基づいて削除が実施されていますが、削除を求めても対応に至らなかったり、削除申出窓口が分かりにくいといった批判がありました。
そこで、2024年5月、「プロバイダ責任制限法」が一部改正され、大規模プラットフォーム事業者に対して、権利侵害情報への対処措置が義務づけられることになりました。この制度の追加により、「プロバイダ責任制限法」は、「情報流通プラットフォーム対処法」(正式名は、特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)と名称変更されます。
公布から1年以内の施行となるので、2025年5月には、改正法による運営が開始されることになります。
改正法によると、投稿や書き込みによって自己の権利が侵害された者が当該情報の削除を求めることができるので、誹謗中傷投稿だけでなく、成り済まし広告に利用された著名人も削除要請ができます。但し、法律による措置が義務づけられるのは、一定規模以上の大規模プラットフォーム事業者に限られます。
YouTubeやX(旧Twitter)、Instagram(インスタグラム)などは、大規模プラットフォームに該当することになると思われます。
改正法で義務づけられる措置は、削除申出窓口の設置と公表、削除申出への対応体制の整備(十分な知識経験を有する者の選任等)、一定期間内(法律では14日以内の総務省令で定める期間)に削除申出に対する判断と通知を実施することがあげられます。削除しないという判断となった場合、その理由も通知が必要です。運用状況の透明化も要請されており、削除基準の策定と公表、運用状況の公表、削除した場合はその旨を発信者に通知することが義務づけられます。
つまり、削除申出の窓口や削除基準が明確化され、削除申出者に対して、削除措置をとったかどうか、原則2週間以内に通知がなされる仕組みとなります。
SNSやインターネット掲示板では、匿名性が高く、そのことが投稿内容を過激化させる傾向にあります。事業者への本人確認の義務化・厳格化、本人確認記録の保管義務等はまだ実現されておらず、今後も課題は多く残されています。
弁護士 浦本真希 uramoto@fujikake.lawyers-office.jp